岩井圭也日誌

小説を書いています。2018年夏頃にデビュー作『永遠についての証明』刊行予定。岩井圭吾とも。

北大生はこれを読め!

 北海道大学の入学式は本日、4月6日に行われるようです。

 私が参加した入学式は十数年前の春。知り合いが一人もいない孤独を噛みしめつつ、4月だというのにまだ道端に残っている雪を見て「北海道やばいな……」と思いながら、東札幌駅からコンベンションセンターへの道のりを歩きました。

 道端の雪は泥土と混じり、汚れて灰色になっていました。数日後には基礎クラス(まだこの制度あるんだろうか?)の友人たちと楽しく過ごすのですが、入学式の日に目にした残雪は、なぜか今でも記憶しています。

 前置きが長くなりましたが、とにかく元北大生の私は小説やドラマに北大が登場するとつい身を乗り出してしまう癖があります。

 

 『七帝柔道記』(増田俊也角川書店)を読んだときには、「これだ!」という感触がありました。上手く言えませんが、「見つけた!」という感覚だったのです。

 学部4年間、私は体育会剣道部に所属していました。ちなみに稽古は週6日がデフォルトで、社会人になってからその話をするたび「なんでそんなことしてたの?」と心底不思議そうな顔をされます。

 札幌キャンパスの十八条の入口近くには二階建ての剣道場があります。剣道場のそばには武道場があり、そちらは武道系の部活が共有で使っています。武道場を通りかかると、時おり柔道部の練習が目に入ってくることがありました。

 そのため、数年後に『七帝柔道記』を読んだときには武道場で見かけた柔道部の練習風景が蘇りました。体育会部員だったため七帝戦も知っていましたし、柔道部の同級生から聞いて七帝ルールがあることも知っていました。

 しかし本書に込められた熱量は、ちょっとした予備知識など吹き飛ばしてしまうほど凄まじい。澄まし顔で読みはじめた私は「知ったような顔をするな!」と怒鳴りつけられるような迫力を感じました。

 読者として熱く、密度の濃い二年間を追体験することで、誰もがみずからの青春時代を思い返さずにはいられません。二年目の七帝戦では思わず泣きました。

 

 もう一冊、北大を舞台とした小説では『アリハラせんぱいと救えないやっかいさん』(阿川せんり、KADOKAWA)が魅力的です。

 『七帝柔道記』よりも最近の北大が舞台のため、現役北大生にはこちらのほうがなじみ深いかもしれません。文系棟、教養棟、メインストリート、大野池、北部食堂、北部書店、サークル会館、工学部食堂など、OBの懐かしさをくすぐる場所が次々と登場します。

 クラークの全身像のくだりも北大生にはおなじみ。見覚えのある(紀伊国屋らしき)書店が登場するのも、個人的に印象深いです。

 その北大を舞台に、2年生のコドリと通称『やっかいさん』たち、そしてアリハラせんぱいを中心に物語は繰り広げられます。コドリのこじらせ方は、デビュー作『厭世マニュアル』のみさととはまた少し違うこじらせ方です。

 周囲に迷惑をふりまく先輩たちを疎ましく思いつつ、自分の「何もなさ」を突き付けられてしまうコドリ。この「何もなさ」との対面は、やはりすべての若者が一度は経験するものではないでしょうか。本書には個性の際立ったキャラクターたちが登場しますが、描かれている感情の揺れ動きは普遍的なものであると感じました。

 

 北大を舞台にした二つの物語は、一見してまったく異なる方向性のように見えますが、読み手の青春時代を想起させる力の強さは共通しています。

 現役学生も、遠い昔に卒業したOBOGも、北大に行ったことがない方も、この2冊を通じて北大での日々を慈しんでもらえればと思います。